起業・投資・資産管理術の研究

出版物一覧・注文

 

英米の大学の資産運用に学ぶ

 

 

Part 1   真の一流大学は学生に頼らない

 

少子化、大学全入時代の矛盾

 東京大学大学院教授で芥川賞作家でもあるフランス文学者の松浦寿輝氏は、『UP(東京大学出版会)20075月号で、PowerPointなどを用いた授業の「プレゼン化」に象徴される大学の変容を慨嘆しておられます。「大学教育はサービス業であり、クライアントである学生さんたちに人気のない授業は悪い授業であるということに相成った」。少子化、大学全入時代の余波は、東大にも押し寄せているということでしょう。

 松浦氏の「何かを教えてもらうべき聴衆の方で「評価」できてしまう程度の授業であるなら、そんなものなど最初から出席するに値しない授業であることは自明ではないか」という叫びは、今日の大学、ひいては学校経営の抱える根本的な矛盾を端的に表しており、傾聴に値します。なるほど学生、生徒は授業に関して好悪の感情はあるかも知れませんが、「評価」などできるはずがありません。何かを正しく評価するには、少なくとも対象と互角にわたりあえる程度の能力と明確な基準が必要ですが、そんなものが学生、生徒にあるわけがないからです。

そんな状況で「評価」を得ようとする教師は、畢竟、多くの学生、生徒に合わせて、授業のレベルを落とさなければならなくなるでしょう。仮に、それで一時的な人気を博したとしても、果たしてこれが長い眼で見て、学生、生徒にとって、あるいは国や社会にとって、はたまた大学や学校の経営にとっても正しい教育のあり方であるかは、はなはだ疑問であると言わざるを得ません。

 

教育は、学生、生徒個人の問題か

 百歩譲って学生、生徒に授業や学校の「評価」が可能であるとしても、教育の評価は少なくとも10年、20年という単位でその効果をはかるべきものであって、学期末に行なわれるのでは拙速に過ぎます。仮に学生、生徒が大学、学校の「クライアント」であるとしても、訴訟に勝ちさえすれば「役に立った」と言える弁護士のクライアントとは異なり、学校教育の何が役に立ったかなど、それが高度なものであればあるほど、簡単には言えないものです。

そして何よりも、教育が見据えるべきものは学生、生徒個人だけの問題にとどまらないことを忘れてはならないと思います。教育にとって重要な目的は、「社会にとって役に立つ人材」を育成することにあるからです。

 少子化が止め処もなく進行し、生徒、学生数の減少が大学、学校経営を直撃する現代では、そのような理想論を語る余裕はないと思われるかも知れません。しかし、学生数を確保しようとする余り、大学の水準に満たない学生を入れてしまい、塾の講師などに高校レベルの補習授業をさせるといった大学運営が、学校経営の点から見ても将来的に良い結果をもたらすとはどうしても思えません。

政府がどんな対策をとっても少子化には簡単に歯止めがかかりそうにありませんし、仮に歯止めがかかったとしても、それが生徒、学生の数に反映するのは少なくとも十数年後のことです。学校、大学が生き残るためには、抜本的な「発想の転換」が必要なのではないでしょうか。

 

欧米の一流大学は学生に頼らない

 そこで目を世界に向けて見るなら、意外な事実に気付かれると思います。

 

1

ハーバード大学

21%

スタンフォード大学

13%

ケンブリッジ大学

7%

オックスフォード大学

14%

 

 表1は、アメリカとイギリスを代表する名門大学4校が、2006年度において、どのくらい授業料等の学生に由来する収入に依存していたかを示しています。

学校といえば授業料で経営するものというのが日本の常識かも知れません。しかし、一見して分かるように、これらの大学が学生から得る授業料等に依存する度合いは極めて低いのです。

 比較のために日本の例を挙げると、早稲田大学は学生生徒等納付金に収入の約59%を頼っていますし、慶応義塾大学の場合は、大学病院からの収入があるにもかかわらず、収入の約31%が学生生徒等納付金です。

 少子化の進行する日本の一流私立大学が、英米の名門に比べて「学生に依存する体質」であることは明らかです。

 この違いは何によるのでしょうか。

 

事業の多角化と研究開発

 これら4大学のうち、バーバード大学とオックスフォード大学以外は、事業の多角化によって授業料等への依存度を下げています。スタンフォード大学には病院がありますし(その意味で慶応大と似た事業内容ではあります)、ケンブリッジ大学の場合は出版局からの収入が授業料等の倍以上あり、さらに多くの関連会社やトラスト(信託)を設立しています。

そして、いずれの大学も研究や開発に対する助成金や報酬の割合が高く、学生から得られる収入を超えています。特にスタンフォード大学の場合は、研究開発関連の収入が授業料等と病院からの医療収入を合わせたよりも大きく、最大の収入源(35%)となっていることが注目されます。

 もちろん、事業の多角化や研究開発と言っても、一朝一夕に出来るものではありません。とりわけ研究開発関連収入の大きさは、ノーベル賞級の学者を多数抱えた英米の名門大学なればこそと言えなくもありません。また、同じく欧米の一流大学と言っても、人文系中心の大学では事情は異なるかも知れません。

 

資産運用収入が授業料を超える

 ところが、これらの大学にとって重要な収入源はそれだけではありません。

 次の表をご覧下さい。

 

2

ハーバード大学

36% (21%)

スタンフォード大学

21% (13%)

ケンブリッジ大学

5% (7%)

オックスフォード大学

5% (14%)

 

 表2は、これら4大学の2006年度の収入のうち、資産運用収入の占める割合を示しています。(括弧内)は、比較のため先に見た授業料等の学生に由来する収入の比率を再掲しました。アメリカの2校では、投資の収入が授業料等を上回っており、特にハーバード大学では大学の収入源として最大のものとなっています。スタンフォード大学でも、研究開発関連の収入に次ぐ、2番目に大きな収入源です。

イギリスの大学ではそれほど大きくはないように見えますが、これはカレッジなどが大学本体とは別に投資や資産運用をしていることに理由の一端があるように思われます。

いずれにしても、授業料等と比べれば決して少なくはない額であって、投資のリターンの多くは再投資され、収入として計上されないことを考慮すれば、かなりの投資リターンが得られていることは確かです。

 ちなみに、参考までに日本の例を挙げますと、資産運用にかなりの力を入れているとされる早稲田大学で資産運用収入の割合は収入の3パーセント弱、慶応義塾で4パーセント弱であり、学生生徒等納付金の大きさとは比較すべくもありません。

 

資産運用による効率的な学校経営

 さて、ここで注目するべきは、ハーバード大学の例です。決算書を見る限り、ハーバード大では、病院や出版局を経営するなど事業の多角化はなく、純粋に大学運営に専念しているように見受けられます。そのハーバードが、最大の収入源としているのが、授業料や研究開発助成金等ではなく、投資による収入なのです。

 これは、大学の経営として非常に効率の良い方法です。事業を多角化したり、研究開発を行なうには相当の費用とノウハウ、労力を要し、それなりのリスクも負わなければなりません。もちろん、単純に学生数を増やすためにも施設を拡充したり、新たな教員を雇用するなどの費用がかかりますが、今やそれで学生が増えるとは限らない時代です。これに対して、資産運用収入を得るためには、会議などを開いて運用方針を決めるだけで、実際の運用はスイス系の銀行など運用経験の豊富な信頼できる金融機関に任せておけば事足ります。

もちろんそれなりのリスクはありますが、リスクは管理できますし、新規に事業を興したり、学生数増加のために設備投資するのに比べれば微々たるものでしょう。後はじっくりと腰を据えて待てば、投資元本が複利で成長することにより「資産運用収入が授業料を超える日」が来るのは時間の問題です。

 

奨学金の充実で優秀な学生を得る

 また、資産運用を行なうことにより経営資源を大学本来の事業に集中できるという「余裕」を示すものとして、学校独自の奨学金があります。ハーバード大学では、支出のうち3パーセント以上を奨学金等により学生に支給しています。

 日本でも早稲田大学が資産運用の収入を奨学金に充てるなどかなり頑張ってはいますが、その奨学金支出の割合は全支出の1パーセント余りです。しかも、ハーバード大学の場合、もともと授業料等に依存する度合いが低いので、実に、授業料等の16%が学生に還元される計算になります。これは、全学生のうちおよそ6人に1人が授業料等を全額免除されているのと同じことです。

「学生に依存しない学校ほど優秀な学生が集まる」という典型例と言えると思いますが、その財政的な基盤として投資と資産運用があったのです。

 

次へ

 

公益法人の資産運用規程の何が問題か

欧米の大学、巨大財団に学ぶ資産運用の極意

 

[関連リンク]

投資信託手数料にみる業界の良心

日本の外貨預金金利は国民を愚弄しているのか

コール預金とは何か外貨預金と外貨MMFの利点を併せ持つ

 

**代替投資、伝統的投資に強く、安心して運用を任せられるスイスの銀行のサービスが日本語で受けられます。情報を無料でご提供致しております。詳しくはお問い合わせ下さい(メール: mz.group@e-law-international.com )

**本サイトは情報の提供を目的とするのみであって、当方では、いかなる金融商品の販売、仲介、勧誘も致しません。

 

[HOME]