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Part 2    アメリカ、イギリスの名門大学に見る資産運用の実際

 

ハーバード大学とスタンフォード大学における資産運用

 それでは、アメリカとイギリスを代表する4つの大学が、実際にどのように投資し、資産運用を行っているかを、2006年度の決算書をもとに見ていきましょう。

 英米の大学による投資は、短期的な投資と「寄付基金(endowment fund)」などと呼ばれる長期的な投資に分かれますが、大部分は長期投資であり、短期投資はごく僅かです。ここでは主に長期投資について説明します。

 

3

ハーバード大学の投資アセット・アロケーション

(Harvard University)

米国株式及び転換証券

19%

外国株式及び転換証券

18%

米国国債等

8%

外国国債等

2%

オルタナティブ投資その他

53%

 

4

スタンフォード大学の投資アセット・アロケーション

(Stanford University)

株式及び投資ファンド

44%

リミテッド・パートナーシップ

35%

不動産

9%

債券等

4%

その他

8%

 

 表3と表4は、ハーバード大学とスタンフォード大学の投資運用資産の配分を示しています。一見して株式と代替投資の比率が高いことに気付かれるでしょう。日本の大学と比べれば株式の比率が高いことに驚かれるかも知れませんが、長期的な「資産運用」である以上はむしろ当然のことと言うべきです。それよりも特徴的なことは、債券等の比率が低く、その代わりに代替投資の比率が非常に高いことです(スタンフォード大学の「リミテッド・パートナーシップ」は、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドなどであると考えられます)

 ハーバード大学の代替投資には、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ投資だけではなく、ハイイールド証券(いわゆるジャンク・ボンド)も含まれており、それだけ見るとかなりハイリスクであるように思えます。しかし、これらの投資は現代ポートフォリオ理論に基づき戦略的アセット・アロケーションを組んでありますので、全体としてのリスクは軽減されています。

すなわち、株式が不調であるときは代替投資が好調となり、代替投資が不調であるときは株式が好調であるなどして、ポートフォリオの全体としては安定的に収益をあげることが可能となっているのです。

 米国では、「統一プルーデント・インベスター法」、「統一機関基金慎重運用法」などの法律が定められており、学校法人などの教育機関、非営利団体による資産運用は慎重投資原則に基づく厳しい制約が課されています。これらの大学による投資活動もこれに則ったものであり、いわゆるハイリスクとされる投資を部分的に組み込むことも全体最適を考慮した結果ですから問題ありません。

むしろ、「元本割れ」を怖れるあまりに「インフレに弱い」ポートフォリオを組んでしまうことの方が「慎重投資原則」に反し、問題とされるのです。

 

ケンブリッジ大学、オックスフォード大学における資産運用

 

5

ケンブリッジ大学の長期投資アセット・アロケーション

(Cambridge University)

不動産

13%

証券

78%

マネーマーケット投資

9%

現金

0% (0.2%)

 

6

オックスフォード大学の投資アセット・アロケーション

(Oxford University)

英国株式

29.0%

英国以外の欧州株式

6.5%

米国株式

21.0%

極東株式

5.0%

英国国債(UK Gilts)及び社債

12.0%

ヘッジファンド、ベンチャー・キャピタル、プライベート・エクイティ、エマージング・マーケット等

11.5%

不動産

13%

現金

2.0%

 

 表4と表5は、ケンブリッジ大学とオックスフォード大学の投資運用資産の配分を示しています。オックスフォード大学の運用資産はトラスト・プールと呼ばれているもので、これには大学本体だけではなく、個々のカレッジも投資している模様です。ケンブリッジ大学の「証券」の内容は詳らかでありませんが、主として株式からなると推定されます。

これらの大学の資産配分では、不動産の割合がやや高いのが特徴的ですが、米国の大学に比べるとオルタナティブ投資の比率はかなり低くなっています。伝統的な投資スタイルに近いと言っていいでしょう。

 詳細が明らかになっているオックスフォード大学のトラスト・プールの運用成績を見てみると、2006年までの8年間の年平均リターンは7パーセント弱です。これは米国でエンロン事件などがあった影響で2001年から2002年にかけて市場の急落があったため、やや低めです。2002年からの4年間の平均は11パーセント弱となっています。

 

一時的な損失に動揺しない

2001年度における下落は27パーセント弱という大きなものでしたが、これによって債券中心の運用に切り替えるなどの方針転換がないところは「さすが」と言うべきでしょう。この時期、他の大学、財団などの資産運用も痛手を被ってはいますが、いずれも大きな方針転換はみられず、以後の好成績につなげているのです。

オックスフォード大学のトラスト・プールに関しては、今後の課題は、市場急落の教訓を生かし、運用収益を安定化させることである思われます。おそらく漸次債券等の比率を減らして代替投資の割合を高めることになるでしょうが、そのためには適切な助言が得られる外部の投資運用者に委託することが鍵となります。

 

資産運用は学校経営の要

以上のように、英米の名門大学において資産運用は学校経営の要とも言うべき重要なものとして位置づけられています。学生数や授業料に頼らない経営、奨学金の拡充は、大学の教育機関としての権威を保ち、学生の意欲を高めています。積極的な資産運用がこれに貢献していることは明らかです。

株式や債券といった伝統的な資産だけではなく、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ等の代替投資も活用した高度な運用は、一流の大学が資産運用においても一流であることを示しています。また、実際に投資運用を行っている外部の委託先がそこで重要な役割を果たしていることにも留意するべきでしょう。

日本では大学の資産運用は緒に付いたばかりです。今後は大学を始めとする学校の経営において、資産運用の重要度が増すことは十分予想されます。しかしながら、我が国では、投資家や金融機関も含めて一般社会の投資に関する知識が不十分であり、そのため投資を投機と同一視するような偏見や未熟な態度がしばしば見受けられます。

とりわけ、多額の寄付や出捐を受け入れている学校法人等の非営利機関や公益団体が「投資」を行なうことは、一般社会の誤解を招きやすく、理解を得るにはそれなりの啓蒙が必要となるかも知れません。

 

投資は「義務」である

しかし、欧米では、非営利機関や公益団体が寄付金を投資することは、むしろ「義務」であると考えられています。ただ、その際に「プルーデント・インベスター・ルール(慎重投資原則)」に則った投資でなければならないということです。何もせずに預金するだけの「インフレに弱い運用」は、この原則に反し、違法とされる可能性さえあります。

逆に、株式や代替投資のように一般にハイリスクと思われている投資も、現代ポートフォリオ理論に従って資産に組み込まれるならば、十分に「慎重な」ものとなり得ます。だからこそ、とりわけ非営利機関や公益団体が「投資」を行なう際には、投資理論に通じた外部の専門家の手を借りることが重要になるのです。

 

決断によって道は開ける

ところが、日本の現状では、銀行などの金融機関がそのような依頼を受けるための法律の整備も十分でなく、金融機関自身の知識も足りないように思われます。そして何よりも、他人を信頼して運用を任せ、運用者が誠実に応えるという文化が存在しません。かねてから言われているように、大手の証券会社でさえ、手数料稼ぎのために回転売買をして顧客に損失を与えるというのが日本のカルチャーです。さらに代替投資ともなれば、日本の金融機関の最も不得手な分野の一つであり、その知識水準は一般人と大差ないと言ってもいいでしょう。

従って、真に「慎重な運用」を心がけるならば、スイスなど、資産運用を得意とする外国の金融機関の手を借りるしか方法はないかも知れません。

ここから一歩踏み出すには、それなりの覚悟が必要です。

けれども、少子化は待ったなしの勢いで進行しています。無策のままでは、教育の理想どころか、気が付けば「再建不能」というところまで追い詰められている可能性もあります。そうでなくても、時代は少数のエリート子女に教育資源を集中させる方向で進んでいくでしょう。学生、生徒の数をたのむ教育は、必然的に方向転換を迫られることになります。

今、さきがけとなれば道は拓けるでしょう。

日本の大学、学校法人は、決断すべき時を迎えているのです。

 

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