まず金融機関を探す

 顧客イメージが明確になり、立ち上げ資金が準備できたら、あとは、1. 法律事務所、2. 金融機関、3. 会計事務所、4. アドミニストレーターなどのサービス・プロバイダーと連絡すれば、スタートラインに立ったことになります。

 ここで、おそらく最初に連絡すべき相手は金融機関でしょう。

もし、レバレッジのために借株や融資を受けたいならプライム・ブローカー・サービスを提供している銀行ということになりますが、そういうリスクのあるサービスを実績のない新米ファンドに提供する銀行がそうあるものではありません。まずはファンド登録地で保管口座(custody account, custodial account)が開ける、ファンド・マネジャー向きのサービスを提供してくれる銀行を探しましょう。口座は、投資運用資金を管理する口座と、事務経費等を管理する口座の二つは最低限必要です。

 ファンド・マネジャー向きのサービスを提供している銀行では、現地の法律事務所、会計事務所、アドミニストレーター等の情報も得られるでしょう。そこで次に連絡すべきは、法律事務所です。法律事務所では、想定される顧客に合わせて、ファンドの法的なストラクチャーを決め、目論見書(一般の投資信託の場合はprospectus、ヘッジファンド等の場合はoffering memorandumoffering circular)を作成してもらいます。目論見書は募集の際に投資家に交付するべき書面ですが、大きな目的はファンド・マネジャーを法的に保護することです。

 

法人等の設立

さらに、ストラクチャーに合わせて、ファンドの法的な主体である法人や、リミテッド・パートナーシップ、トラストなどを設立する際にも法律事務所のお世話になります。ヘッジファンドなどの場合は、オフショア現地に登録したファンド本体以外に、運用主体、販売主体などを設立するケースが多いようです。アメリカでは、法人税のかからない会社である有限責任会社(LLC)を利用するのが最近のトレンドとされています。

 ファンド本体は、ストラクチャーによっては国内を登録地として設立することもありますが、ヘッジファンドなどの場合は、ガーンジー島、ケイマン諸島、バミューダ、BVI(英領バージン諸島)などオフショア金融センターに設立するのが一般的です。特に米国の財団や大学基金等の非営利の機関投資家を顧客にしたい場合は、オフショアの法人として設立しなければなりません。

 

 

ケイマン諸島での設立が有利

では、これらオフショア金融センターの中では、どこに設立するのが有利なのでしょうか。一般的にはケイマン諸島であると言われています。会社法、ミューチュアル・ファンド法、リミテッド・パートナーシップ法など、投資ファンドの設立や運営に関連する法律がファンド・マネジャーにとって有利な形で整備されており、金融、法務などの関連サービスなどのインフラも充実しているからです。さらに、地理的な条件から米国の株式市場とリアル・タイムで取引できるということもあります。

日本の機関投資家がヘッジファンドに投資する場合は、ケイマン籍のユニット・トラストとして設立されたファンドでないと受け容れられないという説もあるくらいですから、和製ヘッジファンドの登録地ならばケイマン諸島でほぼ決まりと言っていいかも知れません。また、先述したように米国の財団等を顧客に想定している場合もケイマンが適当です。

ファンド・マネジャー向きのサービスを提供している銀行の口座に資金を入金し、法的なストラクチャーが決まったら、あとは会計事務所とアドミニストレーターさえ決めれば、もう運用を開始できます。

 

オフショア・ファンドの設立は簡単だ

こうして見ると、あっけないほど簡単なように思えるでしょう。実際、当初の運用資金さえ確保されているなら、立ち上げ自体は難しくないのです。現在、世界中でヘッジファンドなどの私募ファンドは万単位で存在するとされますが、その理由の一つは、このように設立が容易であるからです。例えば、ウォール街の元金融マンが数人寄れば数億円の元手くらいはすぐ集まりますから、ヘッジファンドが雨後の筍のように出来るのも不思議ではありません。

日本で「ヘッジファンド」と言うと、ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドやかつてのLTCMなど、「世紀末の怪物」的なイメージが根強いのですが、実際には「ブチック型」といって中小・零細企業がほとんどでしょう。顧客である投資家も、富裕な個人というよりは年金基金や財団、大学の寄付金基金などの機関投資家がメインです。これは機関投資家がことさらハイリスク指向だからではありません。株式や債券などの伝統的な資産クラスにヘッジファンドを加えることで分散効果が現れ、ポートフォリオ全体としてはリスクが低減すると考えられるからです。一般のイメージとは逆に、むしろ金融を安定化させる側面があるのです。

ここでは『ヘッジファンド、投資ファンドの作り方』として立ち上げの方法を中心にご説明しましたが、言うまでもなく、これは出発点にすぎません。設立してからが勝負です。どんなビジネスでもそうですが、顧客の獲得が一番の課題です。米国のヘッジファンド業界で活躍するある人物によれば、顧客(投資家)を獲得するには経営、投資戦略ともに「ブレない」ことが最も大事であるといいます。揺れ動く相場の世界にあるからこそ、不動の信念こそが成功の鍵なのです。

 

 **ケイマン諸島での投資ファンドの設立を計画されている方へ、ファンド・マネジャー向きのサービスを提供している銀行の情報をご提供しております。

 

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