親子の間で分散すれば・・・
このたとえ話を「分散」という観点で説明するなら、「所有の分散」ということになるでしょう。会社の経営不振や破綻のリスクに対処するために「銘柄の分散」があり、国の経済や政治のリスクに対処するために「投資地域や通貨の分散」があるように、人の人生において遭遇するであろう予測不可能な災厄から資産を守るために、あえて資産の一部を他人に所有させる、すなわち「所有の分散」をはかることが有効となる場合があります。
もちろん、ただ他人に所有させるだけでは何にもなりません。譲渡された者が、その財産を自分本来の資産とは厳密に分離・区別して安全に保有し、譲渡した者によりあらかじめ定められた方法に基づき、厳格に運用し、利用する(受益者に対する運用益の分配など)ことが確保されていなければなりません。この義務(信任義務、忠実義務、フィデュシアリー・デューティーとも言います)があいまいなままでは、「所有の分散」など絵に描いた餅どころか、財産をどぶに捨てることになりかねません。
「所有の分散」と言えば、親が財産を子の名義にしたり、生前、子に財産を譲ることなどが一般に考えられます。しかし、家族の間では厳格な財産の分割管理が確保されにくく、約束も曖昧なものになりがちのため、望ましくない結果となる例が多く見受けられるようです(シェイクスピアの『リア王』は単なる絵空事ではないのです)。
信託の設定、財団の設立
実は、資産を保全するために「所有の分散」をはかることが、欧米では伝統的に行なわれてきました。従って、古くからの制度の蓄積があり、譲渡された財産が不正に流用されることなく、本来の意図に従って利用されることを確実にする方法も確立されています。
その代表的な形態が「信託(トラスト、trust)」の設定、「財団(foundation)」の設立なのです。
トラストは主として英米法の地域で、財団の設立はヨーロッパ大陸においてよく行なわれる方法です。簡便な方法として、リヒテンシュタインのいわゆる家族財団などがよく知られています。
日本では「財団(法人)」と言えば公益目的のものと決まっており、費用もかかる上に設立のために主務官庁の認可を得ることも極めて面倒であるとされていますが、リヒテンシュタイン財団の場合は家族の資産保全や相続対策を目的とする設立が認められているだけでなく、比較的少額の手数料で簡単に設立することが可能です。
欧米では当たり前の手法
トラストや財団を利用した資産の保全・運用は広く用いられており、欧米ではむしろ当たり前のことです。その手法は多岐にわたっており、しかも洗練されています。破産した富豪(やその子孫)が、トラストのおかげでその後も宮殿のような屋敷に住み、悠々自適の生活を送っている例さえあります。フォード・モーターやウォルマートなど、莫大な時価総額を誇る多国籍企業においては、創業者一族が株式をトラストの形で保有し、資産承継に伴う様々な問題を回避しながら、今なお約40%にも及ぶ議決権を有しています。
世界的に見れば、本人名義で直接保有されている資産の方がむしろ少ないと言われているほどなのです。
個人の資産保全・運用を目的とする信託(トラスト)の設定、財団(ファウンデーション)の設立に際しては、主に海外の業者を利用することになります。真剣に検討される場合は、信頼できるスイスの銀行などにまずご相談された方が良いでしょう。信託会社は、名目的にせよ財産を譲渡する先になりますので、事情に詳しい銀行などと相談して選定された方が安心だからです。トラストや財団に譲渡された資産は、設立業者自体の財産とは明確かつ厳密に区別された形で、当該銀行の口座で管理されることになります。
信託や財団の名義でスイスの銀行に保有された資産は、人が人生の行程において遭遇するべきあらゆるリスクを免れ、そこにかかるのは、ほとんど純粋な「投資のリスク」だけになります(あるいは、運用の方法によっては、それさえもかからないでしょう)。最初のたとえ話に戻るなら、「卵を抱えた人」がコケる心配がなくなるのです。
信託法は改正されたが・・・
ここ日本では、最近、信託法の改正により信託ビジネスの可能性が広がったとして話題になっています。けれども、日本の信託は主としてビジネスのテクニックにとどまり、個人の資産管理法としては極めて使い勝手の悪いものとなっています。その理由としては、法律上の問題や政府による規制等が挙げられます(日本では、信託期間を経過した信託の残余資産は国庫に没収されることがあり得ます)。
また、信託の思想が社会に普及・浸透しておらず、「所有と利用(受益)の分離」が理解されにくいということがあります。ところが日本では、信託ビジネスの中心であるはずの信託銀行が、本来の信託とは無関係の単なる代行サービスを「遺言信託」と名付けて、むしろ誤解を助長しているのが現状なのです。
このようなありさまですから、欧米の信託業者やプライベートバンクに見られる「フィデュシアリー・サービス(fiduciary services)」の発達は、日本では当面望めないでしょう。むしろ、欧米流のフィデュシアリー・サービシズによる資産管理手法が日本でも知られるにつれて、今後その表面だけを真似た詐欺的な商法が増えることが懸念されます。
これまでも見てきたように、海外でのトラスト(信託)の設定や財団の設立は、「子孫に財産を残す」ための最も有効な方法の一つであることは明らかです。しかし、その実行には慎重の上にも慎重を期すべきです。真剣に検討されている方は、信頼できるスイスの銀行などの専門機関に必ずご相談されるようにお勧め致します。
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