零細企業はIPOできるか?
それでは、中小企業・零細企業が、このIPOによって資金を調達することは可能でしょうか。
答は「中小企業といっても大き目の会社でなければ難しい」です。
それというのも、一般的なIPOでは調達できる資金が巨額な分だけ費用もかさみますし、証券引受人となる大手の投資銀行は、中小企業・零細企業の資金需要に対して十分に協力的とは言えないからです。投資銀行にとっては、「中小企業の1億円の資金調達」など相手にしても、利益が小さすぎるというわけです。
IPOに代わるDPO
それでは、一般的なIPOに代わる、「より小さな企業向けの」エクィティ・ファイナンスはないのでしょうか。
実は、1990年代の後半から、「証券引受人なしで株式公開する」という新しい試みがアメリカの中小企業・零細企業の間で始まっています。
これもIPOの一種と言えないこともないのですが、証券引受人という「仲買人」が会社と投資家の間に介在しないという意味でDPO (Direct Public Offering, 直接公募)と呼ばれています。
DPOでは、会社は、投資家に対してその株式を自ら広告宣伝して販売します。広告の方法は様々で、インターネット、ダイレクトメールを始め、商品の札やパッケージに印刷するなど、各社それぞれに工夫を凝らしているようです。
「ニッチ企業」が成功する
DPOで資金調達する企業は、いわゆる「ハイテク企業」だけではありません。自然素材を活かした衣料品の通販などのニッチ市場に特化した小さな会社や、地ビール製造といった地域密着型の小企業もDPOを行なって成功しています。
なぜ、このような「小さな会社」が成功しているのでしょうか。
これらニッチ市場に特化した企業には少数ながら熱心な支持者がいるものです。実は、DPOで公開された会社の株を買う人々の多くは、このような企業の「ファン」、つまり一般の消費者なのです。
彼らは、言わば、小さな会社にあって大企業には見られない「製品へのこだわり」や「哲学」に魅せられた人々です。その多くは、それまで株式投資などに無縁であった人たちだと言われています。
その結果として、DPO方式では、一般のIPOと異なり、小さいながらも「理想」を掲げた企業が成功する傾向があります。例えば、「環境」にこだわった製品を作りつづける企業が一部の熱心な消費者の支持を集め、その消費者が株主となるという現象が見られます。大変面白いことだと思います。
数百ドルで株式公開できる?!
DPOで公開する場合、株式公開のための手続きは必ずしも難しくなく、書類などもかなりの部分を自分で作成することができるということです。また、必要書類を簡単に作成するためのソフトなども出ています(とはいえ、訴訟社会アメリカのことですから、弁護士など専門家のサポートを受けたほうが「安全」でしょう)。特に小企業の場合は、証券取引委員会への登録・報告義務も免除される場合があります。この場合、登録手続きは州政府に対してのみ行なうこととなり、数百ドルの手数料で済みます。
何と「数百ドルで株式公開できる」(!?)。驚かれた方も多いと思います。もちろん、この他に広告宣伝費等がかかりますから、「数百ドル」の費用で済ませるのは現実には困難でしょう。しかし、工夫次第でかなり安くできることは確かです。
「株式公開」は夢ではない!!
さて、ここまでお読みになった方なら、一般の日本人や日本の中小・零細企業がアメリカで株式を公開して資金調達することが、決して非現実的な夢ではないということがお分かりになると思います。
例えば、150ドルで米国法人を設立して(設立方法については『英語がわからなくてもできる米国法人設立実践ガイド』を参照して下さい)、年間数百ドルの費用でアメリカの代理秘書(電話番)サービスを申し込む。それと同時にアメリカ向けの通販サイトを立ち上げる。独自の「こだわり商品」で十分な数の熱心なリピーター客が確保できたら、顧客を中心にDPOを行い1億円の資金を調達する、というシナリオも十分に現実的だと思われます。
DPOの場合、必要な費用はその気になれば誰でも何とかなる程度のものです。重要なのは、むしろマーケティング、セールスの能力、「いかにして顧客=投資家の心を掴むか」という点です。
このサイトをご覧の方にも「セールスならまかせとけ」とおっしゃる方がきっといらっしゃるに違いありません。DPOは、そのような方のちょっとした工夫で成功するのです。
DPOの問題点
さて、このようにユニークなDPOですが、問題がないわけではありません。
最大の問題は、「市場の流動性が不足している」点です。つまり、株主が株を売りたいときになかなか売れないということです。
一般にDPOで株式を購入する顧客は、株式を長期的に保有する傾向が強いと言われています。けれども、急な出費などで「株を売りたい」ケースも当然考えられます。流通数の少ないDPO株は、そんなとき思うように売れないのです。
しかし、この問題も少しずつですが改善されつつあります。
それというのも、アメリカには太平洋株式取引所(Pacific
Stock Exchange)のような小企業株式の上場に熱心な取引所もありますし、OTCビリティンボード、ピンク・シート市場といった未上場株を扱う伝統的な店頭市場があるからです。
また、企業によっては、自社株の「売り」と「買い」をホームページ上でマッチングさせて流動性を向上させようと試みているところもあります。
資金調達の選択肢として
アメリカでの株式公開、エクィティ・ファイナンスについて具体的なイメージが掴めましたでしょうか。
もし、あなたの会社が「中小企業」の中でもやや大きめで、調達したい資金も数億円の単位を超えるようなら、大手の投資銀行と連絡して一般的なIPOで資金調達されるのがいいかも知れません。
けれども、あなたの会社がやや小さめか、または個人企業である場合は、DPOの方がより可能性が高いと言えるでしょう。もし、更なる事業展開を考えておられるなら、将来のDPOも一つの選択肢です。
個人企業や小さな会社にとっては、「アメリカ進出」と言ってもピンと来ないかも知れませんが、工夫次第で「百万ドル」単位の資金が集まる方法があるということを覚えておいて損はありません。
日本でDPOできるか?
以上はアメリカでの話です。
「確かにDPOなどは話としては面白い。でも、うちはアメリカ進出には興味がないし、DPOのようなことを日本でやるのは無理なんじゃないか。」と思われたかも知れません。
確かにDPOそのものを日本で行なうのは、法律上問題がある可能性があります。
しかし、これもちょっとした工夫で解決できる可能性があります。
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