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インデックスファンドの手数料に見る、

投信会社の「良心」

 

 

      目次

Part 1  インデックスファンドとは「投信業界の嫌われ者」である

 Part 2  インデックス型投資信託の「手数料が安い」は本当か

 Part 3  インデックス型投資信託の手数料を比較・分析する

 

 

Part 1  インデックスファンドとは「投信業界の嫌われ者」である

 

ある投信セミナーでの体験

 ある外資系の投信運用会社が都内のホテルで開いたセミナーを見に行ったことがあります。

大ホテルのフロアを借り切り、大広間を何度も移動させられるセミナーは盛況で、まさに「貯蓄から投資へ」の流れを象徴しているかのようでした。けれども、肝心の投資セミナーの内容自体は、ほとんど覚えていません。

 唯一強烈な印象を残したのは、平均株価や株価指数に連動するインデックス運用をしているパッシブ・ファンドと、ファンドマネジャーが銘柄を選択するアクティブ運用をしている投資信託の運用成績を比較したグラフを見せられたときのことでした。

おそらく営業担当社員であると思われる講師が、さも当然のようにこう言ってのけたのです、

「このグラフに見られる通り、ほとんどのアクティブ・ファンドはインデックス運用のファンドに比べて成績が良いのです」。

これには、正直言ってびっくり仰天してしまいました。

 

資産運用の「常識」に反する

 これが何故驚くべきことかと言えば、「アクティブ運用をしているファンドのほとんどはインデックスファンドに勝てない」というのが、資産運用の入門書にも出てくる、言わば「常識」であるからです。

 しかも、セミナーでは、その「常識」について一言の言及もありません。

投資信託について、ちょっと勉強した人なら誰でも知っているであろう「常識」と正反対のことを言って置いて、「どうしてそうなるのか」など何の説明もないところに、この外資系投信会社、ひいては投資信託業界の体質、そしてその多くを覆っているであろう「インデックスファンド憎し」という雰囲気がありありと感じられ、忘れられない印象を残しました。

 実際、ファンド投資について多少勉強した投資家ならば、そのような「非常識な」グラフを見せられれば、「運用手数料(信託報酬など)の影響は考慮されているのか」とか「サンプルとして取り上げられたファンドはどのような基準で選ばれたものなのか」など、疑問はいくらでも生じるでしょう。

ところが、このセミナーを主催する投資信託運用会社は、受講者が資産運用の入門書も読んでいないド素人だろうとタカをくくったのか分かりませんが、この「常識との食い違い」について一切説明しませんでした。また、この手のセミナーの常として質疑応答も全くありません。講師が会社(または業界)に都合の良いことを言って、それで終わりです。

この投信会社は、本拠地アメリカではいざ知らず、その後日本での成績は思わしくないようですが、あたかもそれを予見させるかのような、投資家に対する誠意を欠いたセミナーであったと思います。

 

こうすればTOPIXに勝てる

 その後、どうしても引っかかるのでいろいろ考えてみたところ、ファンドマネジャーが銘柄を選択するアクティブ運用がインデックス運用以上の成績を上げることは、「理論上では」さほど難しくないと気が付きました。その意味で、このセミナーの言ったことは、「本当かも」知れません。

 その理由を簡単に説明しましょう。

例えば、TOPIXは東証1部の全銘柄を対象としていますから、ほとんど誰が見ても「どうしようもない」または「投機的」と思われるような不振企業、赤字企業なども一部含まれています(例えば、最近ではJALなどがそうでしょうか)

そこで、TOPIXの組入れ銘柄から、明らかな「ダメ銘柄」を意識的に除外したポートフォリオを組みます。

これは、銘柄選択とはいっても「ネガティブな銘柄選択」であり、いわゆるアクティブ・ファンドの方法とは異なります。しかし、たったこれだけのことで、「理論的には」TOPIXを超える可能性の高い運用をすることができるでしょう。

ですから、単に「インデックスを超える」だけなら、実は難しくないはずなのです。

 

アクティブ・ファンドが負ける理由

しかしながら、問題は、「TOPIXと完全に一致したポートフォリオ」と、そのような「ダメ銘柄を除いたポートフォリオ」との運用成績の差が、「手数料の差」を超えられるかどうかということです。

残念ながら、その答えは「そうでもない」とせざるを得ません。

一般に、インデックスファンドの運用手数料(信託報酬)は安く、アクティブ運用をしている投資信託の運用手数料は高めであると言われています。

手数料が同等であれば、前記の理由からも、アクティブ・ファンドがインデックスの成績を上回る可能性はかなりあるでしょう。

しかし、多くの場合、仮に運用では勝っても、高めに設定された手数料がそれを打ち消してしまうため、結局「アクティブ・ファンドはインデックスに負ける」結果となってしまうのです。それが、「理論」ではない「現実」です。

要するに、アクティブ・ファンドの多くは、その手数料に見合った運用成績をあげられない、すなわち「自らの実力以上の手数料」を設定している、ということです。

 

投信業界の大いなる矛盾

 当たり前のことですが、ファンドマネジャーが積極運用しているファンドが平均株価や株価指数に負けてしまうなら、(顧客である投資家にとって)ファンドマネジャーやその運用するアクティブ・ファンドの存在意義は失われてしまいます。

 顧客=投資家は、パッシブ運用をしているインデックスファンドを買えばそれで十分だからです。

ところが、インデックスファンドの多くは投信会社や金融機関にとってさほど儲からない商品設計となっています。すなわち、アクティブ運用をしている投資信託に比べて手数料がかなり安く設定されているのです。

先述のセミナーを主催していた投信運用会社だけでなく、投信業界のかなりの部分がインデックスファンドを「目の敵」にしているらしい理由はそこにあります。「主力商品がインデックスに負けてしまうのは、どうも・・・」というわけでしょう。

しかしながら、アクティブ・ファンドの「本当の敵」は、インデックスファンドではなく、自分自身の「割高な手数料(信託報酬など)」なのです。

アクティブ・ファンドの多くは、「インデックスに勝てない」というよりは、実は、「インデックスに上乗せしている手数料」に勝てないからです。

 

ファンドマネジャーの存在意義

しかし、仮に割高な手数料を取らないとするなら、(今度は投信運用会社にとって)アクティブ・ファンドの存在意義はなくなります。高い手数料がとれるからこそ、わざわざ専門のファンドマネジャーを雇って運用するのですから。

このように、アクティブ運用をしているファンド、そしてそこから主な収益を得ている投信運用会社は、「根本的な自己矛盾」を抱えています。

インデックスファンドを運用し、販売しているということは、そのような業界の「ジレンマ」を自らアナウンスしているようなものです。アクティブ・ファンドのマネジャーからすれば、インデックスファンドとは「目の上のたんこぶ」みたいなものかも知れません。

[]ここで言う「手数料」とは毎年かかる「運用手数料」のことであって、投信の購入時に一時的にかかる「販売手数料(申込手数料)」のことではありません。投資信託の販売手数料は、銀行や証券会社などの窓口販売の場合はかなり割高と言っていいと思いますが、最近ではインターネット取引の影響で販売手数料を無料とする投信も増えています(いわゆる「ノーロード」)。これに対して、「運用手数料」は一般に販売手数料よりもやや低めに設定されており目立たない存在であるとはいうものの、運用を続ける限り毎年かかるために、結果的には販売手数料以上に運用成績に響いてくることになります。ですから、長い眼でみれば、ノーロードのファンドを買うよりも運用手数料[信託報酬]の低いファンドを選択する方がむしろ重要であると考えられます(運用手数料の違いのリターンへの影響を後にシュミレーションしていますので参考にして下さい)

 

矛盾を解決する方法

ただし、この矛盾は全く解消できないわけではありません。

そのためには、例えば、スイスのプライベートバンクのように、口座の維持管理手数料などをとる代わりに、組入れファンド個々の運用手数料は無料化するなどの方法を採用することがあり得ます。

一定以上の運用資産があって初めて可能となることではありますが、一つの見識というべきでしょう。

これに対して、日本で事業を行なっている投資信託運用会社には、これとは異なる方法でこの矛盾を解決しようとしているものがあります。

それは、「アクティブ運用の手数料を下げる」のではなく、逆に「インデックス運用の手数料をアクティブ運用並みに引き上げる」というものです。

それで「アクティブ運用がインデックス運用に負けない」公算は高くなるとしても、これが良心的なビジネスであるかは疑問です。

投資信託の運用手数料が「見えにくい価格」であるからと言って、もともと運用コストがかからないはずのインデックスファンドの手数料を割高に設定するのは、いかがなものでしょうか。まして、これを「アクティブ・ファンド以上」の水準に設定するに至っては、投資家の無知を食い物にしていると言われても仕方がないでしょう。

投信運用会社(及びそのグループの中心企業である証券会社や銀行)の見識が問われるところですが、幸いこのような露骨なものはごく一部にとどまるようです。

 

インデックスファンドとは、どんな商品か

これからの議論の前提として、ここで、インデックスファンドの基本的な商品特性をみてみましょう。

まず、「インデックスファンド」の基本的な定義を確認しましょう。インデックスファンドとは、「日経平均やトピックス(TOPIX)などの平均株価や指数に連動するように運用される投資信託」のことです。

この定義から、次のような商品特性が導き出されます。

すなわち、類似のインデックスファンドの運用成績は、理論上は「すべて同じ」であるということです。

平均株価や株価指数は、対象とする銘柄の選択(市場、地域、業種、その他)、計算方法などによっていくつか種類があります。しかし、当たり前のことですが、トピックスや日経225というのは一つしかありません。同じものに連動させるのですから、同様の方針をとる複数の「日経225ファンド」や「TOPIXファンド」などの類似商品どうしで、運用成績が著しく異なるということはないはずです。

例えば、A社の「日経平均ファンド」を買って大儲けした人がいる一方で、同じ時期にB社の「日経225オープン」を買った人は損をしたというのは、ちょっと考えにくいでしょう。C社の「トピックス・オープン」とD社の「インデックスTSPファンド」、E社の「インデックスファンドtspオープン」との間でも運用成績に大差はないはずです(ファンド名はいずれも仮称です)

このように、同じインデックスに連動するファンドの成績に基本的な違いがないというのは、インデックス連動型のパッシブ・ファンドの重要な特性です。

もっとも、現実の運用では、類似のインデックスファンドどうしの間で「指数にうまく連動しているもの」と「連動がへたなもの」があるようです。けれども、理論上は、同じ株価指数に連動するインデックスファンドの運用成績は基本的に「すべて同じ」であるはずなのです。

 

インデックスファンドとは、「手数料競争」に陥りやすい商品である

別の見方をすれば、このことは、同じ株価指数に連動するインデックスファンドが、商品としての性質上、アクティブ・ファンドのように運用の上手い下手では差別化できないことを意味しています。

そこから、さらに重要な商品特性が導かれます。

すなわち、インデックスファンドの場合、必然的に「手数料の比率」が運用成績を左右する決定的に重要な要素となるのです。

従って、インデックスファンドを金融商品として「差別化」しようとするなら、ファンド選びに際して運用の上手下手を考慮する必要がないことから、運用や販売にかかる「手数料」で差別化する以外にないことになります。

言い換えれば、投信の運用会社や販売会社にとって、インデックス運用をしている投資信託は「手数料で競争する以外にない厄介な商品」ということになります。つまり、「価格競争に陥りやすい商品」だということです。アクティブ・ファンドのように運用の上手さや戦略の優秀さや手法の先端性(それが何であろうと、現実のリターンをもたらさなければ付加価値を付けるためのイメージにすぎないのですが)をアピールできないのがインデックスファンドであるからです。

要するに、投信業界にとっては、「インデックスファンド」イコール「儲からない商品」であると言っていいと考えられるのです。

 

Part 2  インデックス型投資信託の「手数料が安い」は本当か

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