円はすでに暴落している
--低金利通貨の運命--
日本国政府の巨額財政赤字のために、「円が暴落する」と言われていたことがありました。しかし、世界経済の減速で日本円は高騰し、円暴落説は「当たらなかった俗説」のようになっています。けれども、円は本当に「強い通貨」になったのでしょうか。
|
|
存在しない三つの通貨
これから申し上げることは、ちょっとショッキングなことかも知れません。
しかし、実は単純なことです。
これをお読みになれば、この簡単な事実に今まで気付かなかったことが不思議に感じられるほどだと思います。
まず、最初に仮定の話をしましょう。その方が議論の本質をつかみやすいと思われるからです。
ここに、現実には存在しないx、y、zという三つの国があり、それぞれにX、Y、Zという架空の通貨があるとします。
通貨Xには毎年5%の金利が付きます。ですから、x国の国民は、銀行に預金するだけで貯蓄が年率5%の複利で増えていくことになります。(ここでは簡単のために、金利=銀行預金金利とします。)
ところが、YとZは全く金利の付かないゼロ金利通貨です。
通貨Yと通貨Zの違いは、Yの為替レートが通貨Xに対して事実上固定されていて全く動かないことです。これに対して、通貨ZのレートはXに対して変動しています。
整理すると、
x国 通貨Xは常に年率5%の金利
y国 通貨Yは常にゼロ金利、為替はXに対して固定
z国 通貨Zは常にゼロ金利、為替はX(Y)に対して変動
となります。
為替レートが金利を相殺
さて、通貨Zの為替相場がどのように変動するのかと言えば、通貨Xが毎年5%の複利で運用できる効果を「打ち消す」ように変動していると仮定します。Zはゼロ金利通貨ですから、Zのまま預金しても全く増えませんが、これを通貨Xに交換して預金すれば毎年5%の複利で増えるでしょう。けれども、ZのXに対する為替レートが常にZ高X安に振れているため、X建ての預金が5%複利で増えたとしてもZに換算すると結局は増減しないとするのです。言い換えれば、ここで通貨Zの為替レートは、通貨Xの金利をちょうど相殺するように常にZ高に動くと仮定されています。
便宜上、ある年に100X = 100Y = 100Zという為替レートが成立し、各通貨の購買力も同等であったと仮定して、そのときから、上記の条件の下でそれぞれの通貨がどのように動くかを計算してみたのが次の表です。
[表1]
架空通貨X、Y、Zの比較
|
|
通貨Xを銀行預金した場合 (単位:万X) |
通貨Xをたんす預金した場合 (単位:万X) |
通貨Y(Z)を銀行預金した場合 (単位:万Y(Z)) |
通貨Zの為替レート(対X、Y) (=100X=100Y) |
|
当初 |
100.00 |
100.00 |
100.00 |
100.00 |
|
1年後 |
105.00 |
100.00 |
100.00 |
95.2 |
|
2年後 |
110.25 |
100.00 |
100.00 |
90.7 |
|
5年後 |
127.62 |
100.00 |
100.00 |
78.3 |
|
10年後 |
162.88 |
100.00 |
100.00 |
61.3 |
|
15年後 |
207.89 |
100.00 |
100.00 |
48.1 |
|
20年後 |
265.32 |
100.00 |
100.00 |
37.6 |
これを見ると、通貨Xは毎年5%複利で増えていきますから銀行預金しただけで20年後には3倍近くになっています。通貨YとZは完全なゼロ金利ですから当然ながら銀行預金したとしても何時までたっても全く増えません。
ところが通貨Zは、通貨Xが金利で稼いだ分をちょうど相殺するように常に為替レートがZ高となっています。その結果として、20年後に通貨Xが金利で3倍近くになったのと呼応して、通貨Zは対X、Yの為替レートで20年前の3倍近くも強くなることになります。
このように通貨が強くなっていることの意味は何でしょうか。
Z国の国民は自国通貨での預金こそ増えないものの、x国に旅行しても特に「物価が高い」とか、「自分たちが貧しくなった」とは感じないということなのです。
|
|
金利も為替変動もない通貨
けれども、y国の国民にとっては事情は異なります。当初は同程度の物価水準であったx国やz国を、20年後にy国の国民が訪れたとすれば、両国の物価の高さに目を剥くに違いないのです。そして20年前はあれほど気軽であった海外旅行が、すでに一種の「贅沢品」となってしまったことに気付き、時代の変化を身にしみて感じるはずです。
何故そういうことになるのでしょうか。
それは、通貨Xと異なりYには金利が付かず、しかも通貨Zと異なり為替レートが固定されているからなのです。
金利が付かず、レートが固定されているということは、言わば「たんす預金に固定されている」ということです。ですから、通貨Xが金利で増えた分がそのまま目減りしてしまうのです。
さらに恐ろしいことには、y国の一般国民は、自らの資産の目減りに危機感を抱くどころか、ほとんど気が付くこともないでしょう。それというのも、為替レートがずっと「X=Y」のまま変わらず、「超」が付くほどに安定しているからです。一方、外国の金利がどうなっているかなどということは知らないし、興味も関心もありません。こうして、「x国やz国に行くと物価が高くて大変だよ」「昔は安かったのにね」などと思っているうちに、y国の国民は茹でガエルが茹で上がるように貧乏になって行きます。
日本円に起こっていること
このように、通貨Yの為替の安定は単なる見かけだけであって、実際にはy国の通貨はXに対して毎年5%複利でどんどん目減りしているのです。年5%と言えばわずかなようですが、20年後には当初の3分の1近くにまで購買力が低下してしまうことになります。
果たして、これを「暴落」と言わずに何と言うのでしょうか。
しかも、これは誰も気が付かない暴落、すなわち「ゆるやかな暴落」なのです。
さて、もうお気付きかも知れません。
1980年代以来、この通貨Yにも喩えられるような事態が、日本円にも起きているのです。
もちろん、日本円は変動相場制をとっており為替レートは固定していません。けれども、1985年のプラザ合意により円が急騰して以来は、日本円の対ドル相場は比較的狭いレンジで動いています。1980年代の後半に1ドル=150円台を抜けてから約20年の間に150円を超える円安になった時期は1度しかないし、逆に1ドル=100円を割り込むような円高傾向が見られた時期も2度しかありません(2008年11月現在)。多くの場合、100円から120円台で推移しており比較的安定しています。そしてこの間、ほとんどの時期で超低金利政策(ゼロ金利も含む)が採られていたのはご承知の通りです。
一方、諸外国では、金利が地域や時期により様々であることは言うまでもありませんが、日本のように20年も超低金利を続けた国はまずないと言っていいでしょう。高金利はオーストラリアやニュージーランドだけではないのです。バブル時代このかた、海外ではいつ、どこへ行っても「日本より高金利」であると言ってほぼ間違いのない状態が現在も続いています。
その「金利差」と「為替の安定」が積もり積もればどのようなことになるのでしょうか。
円はすでに暴落している
この質問の答えは、先の喩え話にあります。
すなわち、そこでy国の住人がX国やZ国に旅行し、彼の国の物価高に驚くというようなことが、日本円でもすでに現実となっているのです。
例えば、最近ロンドンの地下鉄の運賃が高くて、円に換算すると800円とか1000円もすると言われています。
これは彼の地がハイパーインフレに見舞われているからでしょうか。
そんなことはありません。
私たちがそれと気付かないうちに、円が暴落していたからなのです。
日本円が長い時間をかけて、ゆっくりと暴落した結果、日本人は外国の地下鉄にさえ気軽には乗れなくなってしまったというわけなのです。
これはすでに如何ともし難い格差のように見えます。このくらい差が開くと、今後は多少円高に振れるとしても、ロンドンの地下鉄が東京並みの160円で乗れるようになるとは、ちょっと考えにくいでしょう。
これでは、ロンドンと東京が「先進国の首都」として同等であることさえ疑わしくなって来ます。かつての強い円に支えられた「世界第二位の経済大国」は、知らず知らずのうちに貧乏になっていたと言わざるを得ないのではないでしょうか。
日本は貧困化する?!
嘆かわしいことですが、日本経済が外需主導から脱却しない限り、このような「貧困化」に向かう傾向はそう簡単に変わりそうにはありません。
輸出に対する依存度が高いと、円高で輸出産業が不振なら即不景気となるため、これを避けようとして、どうしても低金利、円安に誘導する傾向となりがちだからです。
このような状況で手をこまねいていては、今後も円資産の目減りと、それに伴う日本人一人一人の貧困化はほとんど避けようもないことになります。その意味で、最近、外貨運用に徐々に関心が高まっているのは十分な理由があるのです。外貨運用にはリスクがありますが、日本円に偏ったポートフォリオにも別の意味でリスクがあることに、人々は気付き始めました。
|
|
[関連リンク]
『投資超初心者がプロに勝つための「年30分」ずぼら投資法』
**日本語が通じるスイスのプライベートバンクの情報を無料でご提供致しております。詳しくはお問い合わせ下さい(メール: mz.group@e-law-international.com )。
**本サイトの金融関係記事は情報の提供のみを目的としており、本サイトでは、預金、投資信託等も含め、いかなる金融商品の販売、仲介、推奨、勧誘も致しません。
[HOME]